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2009年10月01日

「緑色の坂の道」vol.4537

 
      波止場食堂、朝と昼。
 
 
 
■ 昔、工事現場の監督をしている若い者に連れてきてもらって飯を喰った。
 こういうとこ、きたことないでしょ。
 違う世界というかその外郭に属していると思われていた私は黙って肯く。
 センセ、ところで仕事がんばってんの。
 はい。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4538

 
      波止場食堂、おかわりください。
 
 
 
■ 話はといえば、彼が岡惚れしている女子大生のことだった。
 ドウシタラヨカロ、ということなのだが、おまえまず痩せろよとは言い難い。大盛り食べてる。
 かつて下北沢あたりには、ちょっと斜に構えた妙齢が落ちていて、ミステリアスな横顔でJAZZ喫茶で皿を洗っていたものだ。
 劇団関係の方々や、とりまき関係の方などが安い酒を飲んでいて、それからラーメン喰って帰ったのである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4539

 
      波止場食堂、とめてください。
 
 
 
■ 私は大体、車だった。
 その頃は穴場のようなものがあり、一晩停めておいてもどうにかなることもある。
 下北界隈で遊んでいる女子大生がその辺りにアパートを、ということは滅多になく、たいていは沿線の実家に住んでいる。
 美大関係がちょっと例外で、口説くにはシーレについて3分は語らねばならない。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4540

 
      波止場食堂、秋刀魚定食。
 
 
 
■ 知っている限りでその女子大生は、駒場と馬場それから郊外に波を送っていた。
 ブルーノート方面が、とりあえず彼ということらしい。
 好奇心旺盛なことはいいことだが、その前に無駄毛剃れよと私はおもっていた。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4541

 
      再びマンハッタン。
 
 
 
■ 始めてのバーに行ったとする。
 カウンターの内側の男や女は、バーの場合には大体男だが、こちらの出方を伺っている。
 外気が20度を過ぎていればマティニ。
 3口で飲める体力と酔いの場合である。
 
 
 
■ 5口くらいで、という頃合、私は何故かウィスキイ・ベースのものを頼む。
 ちょっと優しく、甘さが低糖だったり微糖なのである。
 
 

2009年10月02日

「緑色の坂の道」vol.4542

 
      コンクリとマティニ 4.
 
 
 
■ 工業地帯で、まだ働いているドライバーがいる道路で、イエローまで廻すことはしない。
 少し腹が減っている。
 大蒜と鷹の爪のスパゲティが喰いたくなった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4543

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「緑色の坂の道」vol.4544

 
      タンカレーのTen.
 
 
 
■ いつだったか嘗める酒がなく、仕方なくジンを頼んだ。
 シガーはパルタガスの No4である。
 夏以来、あればそれにすることが多い。
 泥のような重さが気に入っているのかと思っている。
 
 
 
■ ジンはマイナス25度に冷えている。
 そのままオリーブを足せば、すさまじくドライなマティニになるのだが、それも野暮というもので、冷えているうちはそのまま嘗めるのが旨いと思う。
 
 

2009年10月05日

「緑色の坂の道」vol.4545

 
      擬態のR.
 
 
 
■「擬態」という小説があるのだが、訳あって読み直していた。
 90年頃のものだから、初代32のGT-Rが出てくる。911、964のターボなどは簡単にうっちゃることができた結構な名車だと、今にしては思う。
 ちょっといじれば400-500ps.
 好きな人は同じものが買えるだけの金額でレストアを施す。
 専門の雑誌も出ているくらいなものだ。
 
 
 
■ かつて、商社に勤めていた後輩というかなんというかがそれに乗っていて、時々箱根にいっていた。彼はまだ結婚前で、都庁の見える辺りの月極に駐めていたらかなり悪戯されたらしい。
 その気持は少しだけ分かる。また悪戯で済んだだけ、牧歌的な時代だった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4546

 
      Rとチャイルド。
 
 
 
■ たまにであるが、白金台界隈のスタンドに、極めて程度のいいGT-Rが入ってくる。
 32はさすがに少なく、33か34辺りである。
 私はカップのコーヒーを飲みながらそれを眺めている。
 年の頃は30代後半から40前半。スモークを貼った後部座席に、小柄のチャイルド・シートが付いていることもあって、それはそれで粋なものだった。
 あのマフラー、ワンオフだな。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4547

 
      Rとチャイルド_2.
 
 
 
■ 今、綺麗に乗っているRというのは、もしかすると10万kmを超えている。
 車体自体が、僅かにやれてきている頃かも知れない。
 それはそれとして。
 メーカーから出ているR用の化学合成油というのは結構品質が高く、それでいて時々リーズナブルに出ていた。
 私も江東区のディスカウントで3缶買っては別の車で試したのだが、今にして思えば少しオーバースペックだったと思う。
 格段苦情は出なかった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4548

 
      Rとチャイルド_3.
 
 
 
■ 綿のワイシャツを着て10数年以上前のRに乗る。
 これはひとつの粋がりだろうとおもう。
 ぜってー、スライドドアには乗らねぇ。みたいなものか。
 3000から5000でのオイル。ターボタイマー、油圧計。
 アーシングは自分で、ブッシュも数セット目かも知れない。
 彼らと話したことはないが、ダッシュを開けると案外にガンダムの塗分けについて、解説書が入っていそうだった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4549

 
      Rと愛育。
 
 
 
■ 今、現行のものではないRに乗っているのは、偏差値の高いヤンキーである。
 硬派と言ってもいい。
 スパルタン。
 という単語に、一度は痺れた青春半ばか後期を送っているはずだった。
 
 
■ 彼らも大人になり、デフのバック・クラッシュが分かるようになると、運転が優しくなる。背の高い国産ミニバンのテールが台湾製のLEDに換えられていようとも、フロントの短い彼らが妙に後ろから突っついてこようとも、ちょんとブレーキを踏んで、近いよと示唆し、それから先にトレーラーをいかせるのである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4550

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2009年10月14日

「緑色の坂の道」vol.4551

 
      コンクリとマティニ、ツー。
 
 
 
■ ここで転べば、消しゴムのように脚がなくなる。
 後は水が流され、モップで表面をなぞる。
 首都高速の橋桁の光を眺めていると、すこし嫌気がした。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4552

 
      山姥。
 
 
 
■ 童話を眺めていると、くりかえし山姥が出てくる。
 柳田さんの「遠野物語」にも記述はあって、彼ら彼女らは化けたのだが、おそらくは飢餓と関わりがある。
 ドーミエだったかゴヤだったかに「わが子を食らうサトゥルヌス」という油絵があるが、子供心に怖かった。
 怖いものを、ずっと眺めていた覚えもある。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4553

 
      上海で寝た女。
 
 
 
■ ネオンの配線が外れていて、音を立てている。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4554

 
      野分の日。
 
 
 
■ 傘を指してスロープを下っていくと、ホテルの部屋に男の姿がある。
 シャツとパンツ一枚で、机に向かっている。
 このあいだ酒を奢ってもらったあのひとか、と思いながら階段に下りていく。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4555

 
      森へ入れ。
 
 
 
■ 急ぐことなく。
 
 

2009年10月15日

「緑色の坂の道」vol.4556

 
      ゆっくりした影絵。
 
 
 
■ 夜半、川岸で鳥が鳴いた。
 わたしはサンダルで、男の横顔を思い出している。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4557

 
      ゆっくりした影絵 2.
 
 
 
■ 鳥のような男だった。
 忙しく躯をついばんで、短く飛んだ。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4558

 
      ゆっくりした影絵 3.
 
 
 
■ 同じ題だからといって連作ということではない。
 抗生物質を2日ほど飲んだら、どうにか楽になった。
 なんのせいか、風邪をひいたのである。
 予約をとった医院で1時間半待たされ、このままぶっ倒れてやろうかと思ったがそうもいかない。小さな子どももみている。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4559

 
      ゆっくりした影絵 4.
 
 
 
■ 緑坂というのは、半分は影絵だろうか。
 あるとき屋上に昇ると、西の空が色づいている。
 グラウンドに帽子を被った小さな影が残っていて、ちょっと雲が急ぐ。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4560

 
      I HADN'T ANYONE TILL YOU.
 
 
 
■ 誰もいない部屋の壊れかけたソファの上で、Solo Monk を聴いていた。
 小型のビュアーで画像の確認をしながらである。
「あなたがはじめて」
「そらよかったね」
 
 

「緑色の坂の道」vol.4561

 
      モンクス・ポイント。
 
 
 
■ モンクの右手と左手は、半ば文体のようである。
 始めの出だしいくつかを聴いただけで、あ、モンクだとわかる。
 半分はカクテルピアノでもあるのだが、それを証拠に趣味のいいバーでアルバム半分かかっていたとして気にならない。
 ロマンチックではないけどね。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4562

 
      モンクス・ポイント 2.
 
 
 
■ 恵比寿も近くの坂の界隈も、年がら年中結婚式とその流れをやっていて、病み上がりの寝癖にはこたえた。
 幸せが丸出しというよりも、その周辺部の、どうしてあの娘だけがっ、という水木しげるさんの漫画の背景の点々を描くかのような思いが渦巻いているのである。ちがうか。
 私は砂かけ婆が好きだった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4563

 
      ジーズ・フーリッシュ・シングス。
 
 
 
■ 私がセロニアス・モンクを聴くようになったのは最近である。
 というようなことはなくて、あちらこちらのJazz喫茶の片隅で繰り返し聴いていた筈だが覚えていない。
 太った黒い指の猫。
 にやりと笑う演奏のむこうがみえなかったのである。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4564

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2009年10月23日

「緑色の坂の道」vol.4565

 
      薄い雲と月。
 
 
 
■ 忙しかった。
 食べるとか眠るとか、その背後のなりたちそのもののようなものが時々流れ、走ったり怒鳴ったり、携帯の電池が切れたりした。
 ひとを乗せ、坂道のあたりを曲がると細い月がある。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4566

 
      糸のような月だった。
 
 
 
■ 出雲崎にあるという、禅坊主のトルソに雨がしたたる。
 今、海はみえないのだが、雲はそれに似ている。
 
 

2009年10月25日

「緑色の坂の道」vol.4567

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2009年10月30日

「緑色の坂の道」vol.4568

 
      日暮れ竜胆。
 
 
 
■ 短い旅に出たり重なる〆切に追われたり、いつのまにか秋は深まる。
 寿司と水を買ってかえって、また旅の支度である。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4569

 
      唐辛子。
 
 
 
■ 麻の敷物のうえに、赤い唐辛子を置いた。
 色をみている。
 
 

2009年10月31日

「緑色の坂の道」vol.4570

 
      スマトラの夜。
 
 
 
■ 数日ぶりにPCの前にいる。
 メールと、デスクの上の郵便、未決の書類をよりわけて2時間が過ぎた。
 金と黄色の箱があって、その上にゴシックでニコチンの注意書きがある。
 適宜、歯を磨いてくださいな、ということになればスモカのコピーにもなろうか。
 
 
 
■ ZINOというシガリロは赤色が定番である。
 とあるメーカーのセカンド・ラインだというが、真面目にシガーをぼんやりする暇のない時など案外いいもので、私は空気清浄機と窓の傍で適宜タシなむ。
 ライターは、まとめ買いした確か仏製の100円のそれである。
 石とガスを入れられるのがいい。あたりに散らばせておく。
 
 
 
■ 黄色のスマトラは、どこの葉なのか。
 赤よりもやや軽いのだが雑味があって、唇と歯の辺りで潰したり転がしたりする。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4571

 
      鍛造ピストンの首振り。
 
 
 
■ いつだったかオイルを換えた。
 ふらりと入った店にモチュールがなかったので、純正とされる化学合成の5-40wを選ぶ。作業する人に8リッター全部を入れないように頼んで、その後雨の中を戻った。
 リッター3000からのオイルを選んでも、どうせ3000か4000kmで交換してしまうのだから、定番とされるものでその程を確認しておけばいいだろうという気もあった。価格は半分少しである。
 
 
 
■ 下が5なので、とりあえずは廻る。
 ただ、廻り方に薄いひっかかりがあるような気もした。
 綿のシャツで言えば、その番手である。
 ガレージに降りてゆく。センサーを通り越してシャッターが開くまでの間、サンルーフを閉める。そして、運転席側の窓を開けるのだが、丈の短い鍛造ピストンが軽く音を立てているのが聞こえる。壁の反射だ。
 この程度は別に問題ではないのだが、そういえばあれとあのオイルではこの音が出にくかったな、という気もする。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4572

 
     シングルモルトの夜だから。
 
 
 
■ 冷たい目でみないで。
 と。
 歌いながら通り過ぎていく。
 
 
 
■ 一般に、30代後半から40少しまでのあいだ。
 もう若くはないさと自覚した頃合、男たちはくだらないものに凝りはじめる。
 あるひとは教祖様だったり、自転車のフレームだったり、酒だったり鞄だったりする。
 冒険小説とかハード・ボイルドと呼ばれる一群のハーレー・クィンの男版だったりすることもあった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4573

 
     シングルモルトの夜だから 2.
 
 
 
■ ある中堅都市に、赤いチョッキを着たバーテンダーが経営するバーがあった。
 何度か、その街に住む友人の案内で通ったことがある。
 親父さんはいわゆる鳥巣バーの頃からの生え抜きで、その都市の花街界隈の話はほとんど網羅していたが、それを口にすることはなかった。
 いつだったか、マンハッタンを頼んだ。
 ベース、何がお好みですか、と尋ねられたが、おまかせしますと下駄を預けた。
 
 
 
■ 出てきたものは、ヨーロピアン・スタイルのグラスである。
 赤い例のあれは結構甘く、ステビアかサッカリンのような味がしたことを覚えている。
 旨いのか、と言われれば確かに旨い。
 当時私はキャノンのFDレンズを常用していて、セルフタイマーにして一枚撮った。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4574

 
     シングルモルトの夜だから 3.
 
 
 
■ 始めから殻が剥かれたピスタチオというのがもしあったら、蟹風味のかまぼこを詰まんでいるようなものかも知れない。
 壁に並んだ膨大な数のボトルは、午後2時に店に入ってから全て空拭きされている。
 上のものはどうするんです。
 と尋ねると、脚立は怖いよねと親父さんは言っていた。
 
 
 
■ 今年の始めだったろうか、所用でその街を訪ねた。
 接待というかなんというかが終わった後、一人で路地の辺りを歩く。
 確かこのへんだが、と見知った看板の中に入ると、代が変わっている。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4575

 
     シングルモルトの夜だから 4.
 
 
 
■ カウンターの中には、赤ではなく黒いチョッキを着た30代のバーテンダーがいた。
 壁一面の酒の瓶はそのままである。
 しばらくして尋ねると、1-2年ほど前に親父さんが亡くなり、後を息子さんが継いだのだと識れた。優しそうな、けれども表情の読めない横顔である。
 
 
 
■ 先客がひとりいて、背広姿の40がらみの男性である。
 鞄やネクタイの趣味から、土地の公務員かそれに準ずる仕事をしているのだろうと思われた。
 壁に貼られたシングルモルトの産地の地図を指さしながら、ここはあれで、と店主の後継者と夢中になって話している。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4576

 
     シングルモルトの夜だから 5.
 
 
 
■ 夢のように時は過ぎる。
 シェイカーを振って貰うまでもなく、2杯でその店を出た。
 2杯目は MACALLAN の緑である。
 思うことは色々あるが、独身親元ガンダム世代が主体になればそれでいいじゃないか、という気分も残る。こちらは余所者であった。
 
 

「緑色の坂の道」vol.4577

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