阿呆面のお前たちとどこかでばったり出会っても
そしらぬ顔でいような 2.
■ ワイルダーに子供はいなかった。
いたのであるが、遠く離れたところにいた。
そのことが作品に微妙に影響しているという指摘もある。
都会の独身者の御伽噺。
例えば「アパートの鍵貸します」という作品は「他人の情事のぬくもりが残るベットに一人もぐる男の物語」である。
この辺り、具体的に想像していただくと結構神経に堪えるところがある。
リンダ・ローリングが去った後、枕に残った長い髪の毛を一本を拾い上げて名台詞を呟くマーロウ、なんていうロマンチックなものではない。
■ ジャック・レモン演じる主人公はその間、バーでマティニを飲む。
時間の推移が、オリーブを挿してある爪楊枝が並んでいくことで表現される。
飲まずにいられるかという按配で、ほぼジンそのもの。ノエリー・プラットが数滴。
後にウォッカを使うようになったと、ワイルダーの二度目の配偶者、オードリーは言っていた。
2009年3月 Archive
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阿呆面のお前たちとどこかでばったり出会っても
そしらぬ顔でいような。
■ ワイルダーは、ユダヤ系であった。
ポーランドに生まれている。
緑坂を読まれている方には、半分はそれで通じるところがあると思ってもいるのだが、アンジェイェフスキの小説「灰とダイアモンド」の舞台もまたポーランドであった。
ワイダ監督の元、映画化されている。
私が不機嫌になっていったことが、そのことと関係があるのかどうか。
そんなことは知らないが、ヘップバーンにしてもディートリッヒにしても、少し辿っていけばどうしたってあの時の戦争、ナチとの関わりが水面下に沈んでいるかのようである。
ハリウッドに関わらず、映画という存在そのものがそうしたものではあるのだけれども。
■ ワイルダーの皮肉やウィットは、非常に洗練されていた。
いくつかの作品でケイリー・グラントを使いたかったと、その感じはよく分かる。
「サブリナ」ではグラントの代役がボガートで、そのためボガートは最後までワイルダーとぶつかったというエピソードは有名である。「昼下がりの情事」でもグラントの代わりにクーパーが演じた。
が、今いくつかの作品を思い出してみると、ここでグラントが演じていたら半ば出来すぎになってしまうところだったような気がしないでもない。
チャンドラーも、フィリップ・マーロウを演じるのはグラントがいいと言っていたらしいが、その辺りもワイルダーと一脈通じる感じがある。
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花曇。
■ 空が曇っていると、花の色はそこに透けてしまう。
薄い桃色と灰の区別をつけねばならない、ということもないので、そのまま見上げる。
こうした風土の条件というのは、自分にはどうにもならないもので、またどうにかしなくてもいいんじゃないかというような気になって長い。
■「ワイルダーならどうする?」という映画の本を眺めていた。
キャメロン・クロウという映画監督が、91歳のビリー・ワイルダーに長いインタビューをしたものである(キネマ旬報社刊:宮本高晴訳:2001年)。
装丁は和田誠さん。ワイルダーといえばこの方しかいない。
50年代のハリウッド全盛期、モンローやゲーブル、ジャック・レモンなどのエピソードが語られていた。
「アパートの鍵貸します」「麗しのサブリナ」「七年目の浮気」に「昼下がりの情事」と並べていくと、なんといったらいいのか、ちょっと胸が一杯になる。
■ 壊れかけたソファの上でそれを捲っていると、不思議なことに次第に機嫌が悪くなる。
廻りに当たったりして、大人気ないのは何時ものことだが、それが何処からきているのかが不思議だった。
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桜とるひと。
■ この季節、曖昧なもので、体調ものぼりおりする。
今年は桜も遅いようだが、せんだって英国大使館の辺りで渋滞になった。
三脚を立て、花弁に近づいている人がいた。
マクロなのだろうか、誰しもが撮ろうと試みる。
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味について 2.
■ フロントの空気圧を足してもらう。
まだ冷えているから、規定プラスにはしなかった。
オイルの量はMaxよりやや下である。
■ 低いギアで暫く走った。デフが暖まった頃合、高速に乗る。
別にどうということもないのだが、軽く流していく。
少し雑味が混じっているような気もするのだが、まだ2000キロ走ったかという程なので、多分こちらの馴染みなのだろう。後で0.1リッター程、オイルを足すことにする。
速いトヨタに先を譲り、オービスのないところでシフトダウンしてみた。
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味について。
■ このところ、小型車ばかりに乗っていた。
そういう仕事とまた日常だったからである。
小型車それ一台ということになれば、例えばランチア・イプシロンの適宜やれた奴などがいいのだろうが、シートの手入れがどうにもならない。
まあ、滅びていく風情を楽しむという境地に達すればいいのかも知れないが。
とりあえず色気のようなものは水のように残る。
■ 久しぶりにエンジンをかけ、暖気する。
3秒ほど手前、ガスを送ってからである。
煩いな、という音がして目覚めるのだが、こうした場面の書き方は、大藪晴彦さんが一番旨かったような記憶がある。半ば愚直と言ってもいい。
その後80年代に入ると車や単車は文化的様相を呈し、ポストモダンの波の中に相対化されていったのだが、その流れは実をいうと今でもある。
■ 桑原坂を下り、近くのスタンドで洗車をした。
ここはガソリンの質がそう悪くない。
線路の向こう側で、例えば数円安い看板にひかれ入れてみると、リッター4しか走っていないことがあって、貧乏性は損をする。
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犬の目 7.
■ 写真家などというものは、基本的に犬の目なのである。
これを綺麗に写そうとだけ思うと、いつか下卑てくる。
綺麗に、というところを別の言葉に置き換えても同じである。
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犬の目 6.
■ かつて吉行さんに「ホステスを別の世界の人間だと思わないこと」という名言があった。酒場でモテルにはドウシタラヨカローという切実な問いに対してである。
■ 吉行さんのそれは、トーマス・マン以来の古典的芸術論、いわゆる市民社会が確固として存在する世界の中での表現者の立場である。
分かりやすく言えば、なにがしかの欠落を自覚せざるを得なかった人間が、いたしかたなく表現の立場に追い込まれてくるという構造である。
つまりは不良であると。
あるいは多感すぎてもいけない。
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犬の目 5.
■ 彼女は資格を取ろうとしている。
その相談を友人にしている。
医療や介護や、それから写真に興味があって、私の知らない外国の写真家の名前をいくつか挙げた。
惚れた男と半年住んで、それから別れ、週に何度かはヘルプで入る。
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犬の目 4.
■ で、犬の話からどうにかするかといえばそういうことはない。
ここ数年、億劫なのである。
出された酒を静かに飲み、並んだゴージャスな乾きものを少しつまみ、そのうちのいくつかをポケットに入れ、黙って金を払って戻る。
そうか、障害があると安いのか。
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