乾いた夜 10.
■「まだ見ぬ書き手へ」という本がある。
丸山さんのものだったと記憶するが、今手元にはない。
なかなか挑発的で、全盛期のストーンズのような、それでいて端正な文章だった。
もう20年以上も前から、文学の世界で飯は食えなくなっている。
最も権威あると言われる賞の初版がいくつで、返本がいくつで。
そうしたところの印刷を一手に引き受ける社の方が、そうなんだよと言っていた。
■ JAZZの世界もそれは等しい。
国立大の音楽科を出た彼がいくつかのところを転々としてピアノ教室を開く。
コンクールでそうなった妙齢が、レフ版を当てられて顔が白い。
■ 腕はいいのである。
皆、それなりに才能もある。
違うのは何かといえばよく分らないが、そこに立っていて、あるいはうつむいていて、こちらに伝わる一本の震えではないかと思うこともあった。
そればかりでもないのだが。
2008年1月 Archive
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乾いた夜 9.
■ 夢中に夢見る。
だってそれはそう。
ほかになにかあるの。
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乾いた夜 8.
■ 黒いドレスを着た女が階段を降りてゆく。
ショールを首に巻き、すこしだけ膝が開いている。
何時だったかそれを見送って、もう一杯飲もうかという気になった。
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乾いた夜 7.
■ さっきまで頭痛がしていたのだが、スコッチをショットで三杯嘗めたら忘れた。
鶴のマークがプリントされたグラスで嘗めている。
これは何時だったろう。
自腹でいった時にはこんなものは貰えなかった。
■ ところで青山界隈であるが、墓地の近くにいいマンションがあって、そこは駐車場が広い。
隣のビルに銀色の911が停まっていて、ここ暫くは空冷の964だった。
何年もそこにあるから、新車で買って長いこと乗られていたのだろう。
薄っすらと埃を被っている姿が私は好きだった。
■ 原宿方面から左へと曲がる。
北欧の照明が飾られているところを過ぎて少しばかり加速する。
見慣れた964がなくなって、そのいくつか次の型になっていた時には少しだけ驚いた。
多分10万キロはいっていたのかも知れない。
声をかければよかったのかな、とも思うのだが、冷静になればそれも無駄なのである。
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乾いた夜 6.
■ 最近の青山界隈は、やや枯れた風情があって、年賀のやりとりをさせていただいている大御所デザイナ氏のオフィスの辺りには人影がない。
246に面した高級スーパーでハーブを買ったりするのが、30代独身妙齢本格派のひとつの休日の過ごし方であるともいう。
パセリは見切り品で買ってきて、半日乾かしておけば使える。
それよりもフライパンの裏を洗えよ、と思うのだが口にはしないでいた。
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乾いた夜 5.
■「池袋と青山は、アラスカとコンゴくらい隔たっている」
■ と書いたのは「真夜中の犬」の作者、ほんまりうさんと関川夏央さんだった。
名言である。
関川さんは馬場界隈で教えていたことがあって、かつて関わっていた若い者の何人かがその授業を受けた。
あ。
と、廊下で声を出すと睨まれたとかいう。
あたりめえだ。
■ 私は一般に、若い頃バイクに乗って転んでいた男を信じる。
いい気になってこの季節に跨っていると、喫茶店に入ろうと階段を昇る時、がくりと膝が笑うのである。
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乾いた夜 4.
■ 東京の冬は乾いていて、寝室や仕事場、その他に加湿器を置くことが多い。
塩を入れるタイプのそれがあって、今近くにあるのだが、10年程前に買った湿度計を眺めると40から50の辺りを細い針が指している。
湿度計と仕事用の椅子は少し高いものを買った方がいいというのが持論だが、何故なら永く使うことになるからだった。
■ 永福を過ぎた辺りから道が空きはじめる。
トンネルの辺りで取締の注意が何度か喋る。
国営放送の妙齢よりはいい声をしている。
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乾いた夜 3.
■ おとなしそうな顔をした女や男の後姿を見送っているような気がした。
いわゆる市民社会と呼ばれるものの、生臭いところである。
若い頃、そうしたものに生理的に馴染めず、まわり道をした覚えがある。
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乾いた夜 2.
■ いつだったか中央高速への道を流していると、ハイブリッドの車に抜かれた。
よく社宅の前に色違いで数台停まっている奴である。営業でも使われる。
結構飛ばしているのだが、どうも理不尽な気分が薄く浮かんでくる。
これがこちらの思い上がった部分から来ているのか、暫く点検してみたが判断はつかなかった。
飛ばすのはいいが、止まれなければ仕方ない。
■ 私は先にゆかせることにした。
銀色のそれは、掻き分けるように車線を泳いで先へ進む。
廻りは暗くなってきて、それでも前よりは日が長い。
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乾いた夜。
■ 洗ったグラスに酒を注ぐ。
ハロゲンの光で透けている。
考えることもなく考えている。
それもいいのか。
いや、そうでもなく、と。
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